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東京地方裁判所 昭和55年(行ウ)102号 判決 1985年7月22日

第一〇二号事件原告(1)

宇津木瑛

同(2)

宇津木勇

同(3)

関口洋子

第一〇六号事件

宇津木正

原告(4)

右原告ら訴訟代理人

大石德男

道本幸伸

両事件被告

四谷税務署長

有賀秀雄

右指定代理人

山崎まさよ

外三名

主文

1  原告関口洋子の相続税に係る昭和五五年五月二二日付け再更正の取消しを求める訴え、及び原告宇津木正の相続税に係る同日付け更正をすべき理由がない旨の通知の取消しを求める訴えをいずれも却下する。

2  原告宇津木瑛、同宇津木勇の各請求、同関口洋子、同宇津木正のその余の各請求を棄却する。

3  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求める判決

一  請求の趣旨

1  第一〇二号事件原告宇津木瑛

被告が第一〇二号事件原告宇津木瑛(以下「原告瑛」という。)に対してなした昭和五二年一一月二六日付け相続税更正(但し、昭和五五年五月二二日付け再更正により減額された後の部分)のうち課税価格三億八〇六六万九〇〇〇円(納付すべき相続税額一億七九九三万四八〇〇円)を超える部分及び同日付け重加算税賦課決定(但し、昭和五五年五月二二日付け減額再賦課決定により減額された後の部分)をいずれも取り消す。

2  第一〇二号事件原告宇津木勇

被告が第一〇二号事件原告宇津木勇(以下「原告勇」という。)に対してなした昭和五五年五月二二日付相続税再更正のうち課税価格一三一九万〇二四四円(納付すべき相続税額五九九万七八〇〇円)を超える部分及び昭和五二年一一月二六日付け過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

3  第一〇二号事件原告関口洋子

被告が第一〇二号事件原告関口洋子(以下「原告洋子」という。)に対してなした昭和五五年五月二二日付け相続税再更正のうち課税価格一七五八万六九九二円(納付すべき相続税額七九九万七一〇〇円)を超える部分及び昭和五二年一一月二六日付け過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

(右再更正取消請求についての選択的請求)

被告が原告洋子に対してなした昭和五二年一一月二六日付け相続税更正のうち課税価格一七五八万六九九二円(相続税額七九九万七一〇〇円)を超える部分を取り消す。

4  第一〇六号事件原告宇津木正

被告が第一〇六号事件原告宇津木正(以下「原告正」という。)に対してなした昭和五五年五月二二日付け相続税再更正のうち課税価格一三一九万〇二四四円(納付すべき相続税額五九九万七八〇〇円)を超える部分及び昭和五二年一一月二六日付け過少申告加算税賦課決定並びに昭和五五年五月二二日付け相続税の更正をすべき理由がない旨の通知をいずれも取り消す。

5  各原告

訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の申立て

原告正の訴えのうち更正をすべき理由がない旨の通知の取消しを求める部分を却下する。

訴訟費用は原告正の負担とする。

2  本案の申立て

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因(各原告)

1  更正、再更正及び加算税

(一) 更正、重加算税、過少申告加算税

被告は昭和五二年一一月二六日付けで、原告ら四名に対し、被相続人宇津木一萬太郎(以下「一萬太郎」という。)に係る相続税につき、別表1の各更正欄記載のとおり更正したうえ、原告瑛に対し重加算税を、その余の原告ら三名に対し過少申告加算税をそれぞれ賦課した(以下、各原告ごとにそれぞれ「本件更正」、「本件重加算税賦課決定」、「本件過少申告加算税賦課決定」といい、両加算税を一括して「本件加算税」という。)。

(二) 増減額再更正、重加算税減額

被告は昭和五五年五月二二日付けで、別表1の各再更正欄記載のとおり、原告瑛に対しては減額再更正及び重加算税の減額再賦課をし、その余の原告ら三名に対しては増額再更正(但し、原告洋子については課税価格及び納付すべき相続税額は本件更正と同一であり、ただ「相続人に係る相続税額」の端数が異なつたもの)をした(以下、減額再更正、増額再更正とも「本件再更正」という。)。

2  更正をすべき理由がない旨の通知

(一) 修正申告

原告正は昭和五一年七月二一日、被告に対し、被相続人一萬太郎に係る相続税につき、別表1の同原告の修正申告欄記載のとおり、取得した財産の価額及び課税価格を一三一九万〇二四四円として修正申告(以下「本件修正申告」という。)したが、右価額及び価格の中には評価額三六四万一六一六円の別表2番号1の土地(以下「本件申告土地」という。)を含めていた。

(二) 過誤の存在

本件申告土地は別表2番号2、3の各土地(以下「申告外土地」といい、これと本件申告土地とを一括して「本件越谷の土地」という。)と共に、かつて亡一萬太郎が所有していたが、原告正はこれらを一括して同人の生前、同人から相当代金額で買い受けた。

従つて同原告の本件修正申告は本件申告土地を受遺贈財産に含めた点に過誤があり、その結果、納付すべき税額が過大となつた。

(三) 更正の請求

原告正は昭和五四年九月八日、被告に対し、別表1の同原告の更正の請求欄記載のとおり、前記(一)の課税価格を九五四万八六二八円として相続税を算定すべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。

(四) 更正をすべき理由がない旨の通知

被告は昭和五五年五月二二日付けで、原告に対し、本件更正の請求について更正をすべき理由がない旨の通知(以下「本件通知処分」という。)をした。

(五) 本件更正の請求の適法性

国税通則法二三条一項に基づく更正の請求は法定申告期限から一年以内に限ると定められている。

しかし、被告は本件更正の請求及び本件通知処分に係る異議申立てについて実体判断を下し、国税不服審判所も右の審査請求について同様に実体判断を下した。

このような扱いが不服審理手続でなされたときは、本訴において被告が更正の請求の期限徒過を主張することは、信義則に照らし許されない。

3  前置手続

(一) 本件更正及び本件加算税について

原告ら四名は昭和五二年一二月一三日、被告に対し、本件更正及び本件加算税賦課決定について異議申立てをしたが、被告は昭和五三年四月七日これを棄却した。

原告ら四名は同年五月八日、右に対し審査請求をしたが、国税不服審判所は昭和五五年四月三〇日これを棄却した。

(二) 本件通知処分及び本件再更正について

原告正は昭和五五年六月一二日、被告に対し、本件通知処分及び同原告に係る本件再更正について異議申立てをしたが、被告は同年九月一〇日これを棄却した。

原告正は同年一〇月三日右に対し審査請求をしたが、国税不服審判所は昭和五六年七月七日これを棄却した。

4  要約

よつて、被告に対し、

(一) 原告瑛は、本件更正(但し、本件再更正により減額された後の部分)のうち同原告の修正申告に係る課税価格三億八〇六六万九〇〇〇円(相続税額一億七九九三万四八〇〇円)を超える部分及び本件重加算税賦課決定(但し、再賦課決定により減額された後の部分)、

(二) 原告勇は、本件再更正のうち同原告の修正申告に係る課税価格一三一九万〇二四四円(相続税額五九九万七八〇〇円)を超える部分及び本件過少申告加算税賦課決定(修正申告に係る同税六万七九〇〇円以外の過少申告加算税)、

(三) 原告洋子は、本件再更正のうち同原告の修正申告に係る課税価格一七五八万六九九二円(相続税額七九九万七一〇〇円)を超える部分及び本件過少申告加算税賦課決定(修正申告に係る同税九万〇五〇〇円以外の過少申告加算税)、なお、右再更正に関しては、選択的に本件更正のうち同原告の修正申告に係る右課税価格(相続税額)を超える部分、

(四) 原告正は、本件再更正のうち同原告の修正申告に係る課税価格一三一九万〇二四四円(相続税額五九九万七八〇〇円)を超える部分及び本件過少申告加算税賦課決定(修正申告に係る同税六万七九〇〇円以外の過少申告加算税)並びに本件通知処分、

の取消しをそれぞれ求める。

二  請求原因に対する認否並びに主張

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2は、(一)の事実、(二)のうち、一萬太郎がかつて本件越谷の土地を所有していたこと、(三)、(四)の各事実、(五)のうち各不服申立について実体判断をした事実は認め、その余の各事実は否認する((五)のうち法規の内容は除く。)。

原告正は本件更正の請求は、更正の請求をすることができる期限を徒過した不適法なものであるから、本件通知処分の取消しを求める訴えは不適法である。

右について、本件越谷の土地が明らかに相続財産に属していることを理由に本件通知処分が実体的判断を示し、あえて期限の徒過を指摘しなかつたからといつて、本訴でこれを指摘することはなんら信義則に反するものではない。

3  同3の事実は認める。

三  抗弁

1  包括遺贈

一萬太郎は自己の財産を原告瑛(長男)に一〇〇分の九〇、同洋子(養女)に一〇〇分の四、同勇(二男)、同正(三男)に各一〇〇分の三宛包括遺贈する旨遺言していたところ、昭和四九年一一月二四日死亡した。

なお、一萬太郎は昭和四五年五月六日、宇津木照子(以下「照子」という)と婚姻している。

2  遺産の価額(総額)

原告ら四名が包括遺贈により取得した遺産の価額(総額)は次のとおりである。

(一) 修正申告された遺産の価額(総額)

四億三九六七万四八一九円(別表1合計・修正申告欄①)

(二) 加算すべき遺産の価額(総額)

一億一七四一万〇二九八円

右の内訳は次のとおりである。

(1) 富士銀行江戸川支店における定期預金(別表3番号1ないし11)

合計 四七〇一万七九九五円

ア 右番号1ないし3の仮名定期預金三口合計九二八万五七六六円は、昭和四九年一月一四日に三菱銀行江戸川支店の一萬太郎名義の普通預金口座から払い出して得た四〇〇万円及び同年二月二日、同口座から払い出して得た五〇〇万円により設定された額面合計九〇〇万円に相続開始日までの中途解約利率による既経過利息二八万五七六六円(別表3の額面金額と評価額の差額である。同趣旨のものを以下「既経過利息」という。)を加算したものである。

イ 右番号4ないし8の仮名定期預金五口合計二〇六〇万五六七四円は、同年二月一四日に富士銀行江戸川支店の一萬太郎名義の普通預金口座から払い出して得た五〇〇万円、同年同月一五日に同口座から払い出して得た五〇〇万円及び同年同月一六日に三菱銀行江戸川支店の一萬太郎名義の定期預金を解約して得た一〇二七万〇七一九円の合計二〇二七万〇七一九円により設定された額面合計二〇〇〇万円に既経過利息(計算方法はアと同一。以下同様である。)六〇万五六七四円を加算したものである。

ウ 右番号9及び11の無記名定期預金二口合計一二一二万五三二二円は、昭和四九年六月七日に富士銀行江戸川支店の一萬太郎名義の普通預金口座から払い出した一二〇〇万円により設定された額面合計一二〇〇万円に既経過利息一二万五三二二円を加算したものである。

エ 右番号10の無記名定期預金五〇〇万一二三三円は、昭和四九年一一月一九日に富士銀行江戸川支店の一萬太郎名義の定期預金二口、額面合計三〇〇〇万円を解約して得た三一六八万八七九二円により設定された額面金額五〇〇万円に既経過利息一二三三円を加算したものである。

(2) 富士銀行江戸川支店における通知預金(別表3番号12ないし14)

合計二五〇〇万〇〇〇〇円

右仮名通知預金三口合計二五〇〇万円は、別表3番号10の無記名定期預金と同一の資金三一六八万八七九二円(前記(1)エ)により設定された額面金額である。

(3) 三菱銀行江戸川支店における定期預金(別表3番号15ないし28)

合計 四五三九万二三〇三円

ア 右番号15及び16の無記名定期預金二口合計五〇四万九三一五円は、昭和四九年六月一七日に三菱銀行江戸川支店の一萬太郎名義の定期預金を解約して得た一四六〇万八九二八円により設定された額面合計五〇〇万円に既経過利息四万九三一五円を加算したものである。

イ 右番号17ないし19の無記名定期預金三口合計九〇八万二九七三円は、右番号15及び16の無記名定期預金を設定した資金(右ア)の残額九六〇万八九二八円(三菱銀行江戸川支店の一萬太郎名義の普通預金口座に入金し、昭和四九年六月二六日払い出したもの)により設定された額面合計九〇〇万円に既経過利息八万二九七三円を加算したものである。

ウ 右番号20ないし28の無記名定期預金九口合計三一二六万〇〇一五円は、昭和四九年七月八日に三菱銀行江戸川支店の一萬太郎名義の定期預金を解約して得た三一四万三六八二円により設定された額面合計三一〇〇万円に既経過利息二六万〇〇一五円を加算したものである。

(三) 債務控除額(総額)一五〇三万七五〇六円(別表1合計・更正欄②)

原告らが修正申告の際に控除した債務の額である。

(四) 課税価格(総額)五億三六七一万四〇〇〇円(別表1合計・更正欄③)

本件更正における本来の課税価格(総額)は、右(一)と(二)の合計額から(三)の額を控除した五億四二〇四万七〇〇〇円(千円未満切捨て)であるが、本件更正及びこれに伴う本件加算税賦課決定に当たつては、そのうち標記金額によつて税額を算定した。

3  本件更正における各受遺者の課税価格

各原告が遺贈により取得した財産の価額及びその課税価格は次のとおりであり、本件更正はこれに基づいたものである。

(一) 原告瑛

(1) 修正申告に係る取得財産の価額

三億九五七〇万七三三七円(別表1原告瑛・修正申告欄①)

(2) 加算すべき取得財産の価額

一億〇〇八七万〇八〇三円

前記2の(二)の加算すべき遺産の価額合計一億一七四一万〇二九八円のうち包括遺贈割合(一〇〇分の九〇)に相当する一億〇五六六万九二六八円が同原告に加算すべき取得財産の価額であるが、本件更正及び本件重加算税賦課決定に当たつては、そのうち標記金額を加算した。

(3) 債務控除額 一五〇三万七五〇六円(同・更正欄②)

修正申告どおりの債務控除額である。

(4) 課税価格 四億八一五四万円(同・更正欄③)

右(1)と(2)の合計額から(3)の額を控除した額(千円未満切り捨て)である。

(二) 原告洋子

(1) 修正申告に係る取得財産の価額

一七五八万六九九二円(別表1原告洋子・修正申告欄①)

(2) 加算すべき取得財産の価額 四四八万三一四六円

前記2の(二)の加算すべき遺産の価額合計一億一七四一万〇二九八円のうち同原告の包括遺贈割合(一〇〇分の四)に相当する四六九万六四一一円が同原告に加算すべき取得財産の価額であるが、本件更正及び本件過少申告加算税賦課決定に当たつては、そのうち標記金額を加算した。

(3) 課税価格 二二〇七万〇〇〇〇円(同・更正欄③)

右(1)と(2)の合計額(千円未満切捨て)である。

(三) 原告勇・同正

(1) 修正申告に係る取得財産の価額

各一三一九万〇二四四円(別表1原告勇・同正・各修正申告欄①)

(2) 加算すべき取得財産の価額 各三三六万二三六〇円

前記2の(二)の加算すべき遺産の価額合計一億一七四一万〇二九八円のうち同原告らの包括遺贈割合(各一〇〇分の三)に相当する各三五二万二三〇八円が同原告らに加算すべき取得財産の価額であるが、本件更正及び本件過少申告加算税賦課決定に当たつては、そのうち標記金額を加算した。

(3) 課税価格 各一六五五万二〇〇〇円(同・各更正欄③)

右(1)と(2)の合計額(千円未満切捨て)である。

4  遺産分割調停の成立とこれによる更正の請求

本件更正の後である昭和五四年五月二四日、遺留分権者照子が原告らを相手方として東京家庭裁判所に申立てをしていた遺産分割事件の調停が成立し、その結果、原告瑛が一萬太郎から遺贈により取得したとしてその旨の申告をしていた一萬太郎所有財産のうち、別表2番号2及び3の各土地(申告外土地)を原告正が、同表番号4の土地を原告勇が、同表番号5の土地を照子がそれぞれ一萬太郎から遺贈もしくは相続により取得した。

同年九月八日、原告ら四名は右調停成立を理由に、別表1該当欄のとおり相続税法三二条三号に基づく更正の請求をした(但し、原告正の更正の請求の事由は請求原因2(三)のとおりで、右調停を理由としていない。)。

5  本件再更正における原告らの課税価格

右の遺産分割の結果、原告らそれぞれの取得財産の課税価格は次のとおりとなり、本件再更正はこれに基づいたものである(別表1合計欄③の課税価格が本件更正と本件再更正とで差異を生じたのは、分割により取得した価額ごとの端数処理の違いである。)。

(一) 原告瑛 四億五二一一万八〇〇〇円(別表1原告瑛・再更正欄③)

本件更正に係る取得財産の価額(前記3(一)(1)及び(2)標記金額の合計)から別表2番号2ないし5の土地の評価額合計二九四二万二五七二円及び本件更正と同一の債務控除額(前記3(一)(3))を差し引いた額である。但し、前記3(一)(2)の本来の加算額一億〇五六六万九二六八円によるときは、四億五六九一万六〇〇〇円である。(いずれも千円未満切捨て)

(二) 原告勇 一九六八万三〇〇〇円(別表1原告勇。再更正欄③)

本件更正に係る取得財産の価額(前記3(三)(1)及び(2)標記金額)に別表2番号4の土地の評価額三一三万〇五三三円を加算した額である。

但し、前記3(三)(2)の本来の加算額三五二万二三〇八円によるときは、一九八四万三〇〇〇円である。(いずれも、千円未満切捨て)

(三) 原告正 二三七五万三〇〇〇円(別表1原告正。再更正欄③)

本件更正に係る取得財産の価額(前記3(三)(1)及び(2)標記金額)に別表2番号2及び3の土地の評価額合計七二〇万〇四六八円を加算した額である。但し、前記3(三)(2)の本来の加算額三五二万二三〇八円によるときは、二三九一万三〇〇〇円である。(いずれも千円未満切捨て)

(四) 原告洋子分 本件更正に係る課税価格と同一(別表1原告洋子・再更正欄③)

6  相続税額の計算

本件更正及び再更正によつて原告の納付すべき相続税額は、別表1の更正欄及び再更正欄⑩「納付すべき相続税額」のとおりであり、その計算要領は本件更正につき別表4、本件再更正につき別表5のとおりである。

なお、原告ら及び照子は、当初の申告(照子については期限後申告)において、相続税額の総額を各人に按分する方法として、各課税価格がその総額に占める割合を、その合計が一となるように小数点二位までにとどめることで合意していたので、被告は右合意された方法に従つて本件更正及び再更正を行つた(相続税基本通達一七―一)。

7  本件加算税

(一) 原告瑛に対する本件重加算税

(1) 一萬太郎は、その遺産に係る相続税を免れさせる意図で、架空名義の定期預金及び通知預金並びに架空名義の屈出印を用いた無記名定期預金(以下一括して「本件預金」という。)を設定し、通常の調査では同人に帰属する財産と確知でき難い状態において、これを管理していた。

(2) 原告瑛は、本件預金の存在及びそれが右(1)の状態で設定、管理されていることを明確に認識していたにもかかわらず、一萬太郎の右所為を奇貨として、自らも本件相続税を免れる意図のもとに、故意に本件預金を受遺財産として申告しないで、相続税の課税価格の基礎となるべき事実を隠ぺいした。

(3) 原告瑛に対する本件重加算税は、別表3の本件預金(評価額)のうち一億一二〇七万八六六九円(前記3(一)ないし(三)の各(2)標記金額の合計額相当)を基礎事実としたが、そのうち同原告が取得した価額を前記3(一)(2)標記金額にとどめて、これについて計算した結果、別表6のとおりである。

(二) その余の原告らに対する本件過少申告加算税

原告勇、同洋子、同正はそれぞれ別表1の修正申告欄のとおり納付すべき相続税額を申告したが、同原告らには前記3(二)及び(三)の各(2)のとおり右に加算すべき取得財産の価額があり、これを加算した本件更正に係る同原告らの納付すべき相続税額は、それぞれ別表1の各更正欄⑩記載のとおり(その計算要領は別表4のとおり)である。

右納付すべき相続税額の増差額(千円未満切捨て)に一〇〇分の五を乗じて得られる額(百円未満切捨て)が右原告らに対する過少申告加算税であり、それぞれ別表1の更正欄⑫記載の額となる。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は認める。

2  同2は、(一)の事実、(二)の(1)及び(3)の事実のうち別表3の各定期預金について相続開始日までの中途解約利率による既経過利息を加算した額が被告主張の評価額となること、並びに(三)の事実は認め、(二)のその余の事実は不知、(四)は争う。

なお、(二)の(1)のうち、別表3番号11の無記名定期預金の存在は、本来、更正という方法によつてのみ考慮可能なものであり、しかも本訴においては既に更正期限を徒過しているから、本訴で右定期預金の存在を処分の根拠に加えることは許されない。

3  同3は、(一)ないし(三)の各(1)の事実は認め、同各(2)の事実は否認し、(一)の(3)の事実は認め、(一)の(4)、(二)及び(三)の各(3)はいずれも争う。

4(一)  認否

抗弁4は認める。

(二)  主張

申告外土地を含む本件越谷の土地は、請求原因2のとおり原告正が一萬太郎から、その生前に一括して買い受けている。

したがつて、右土地は原告正の固有財産であり、調停の便宜上、遺産分割により取得する形式をとつたものに過ぎない。

5  同5は、(一)ないし(三)のうち別表2番号2ないし4の土地の評価額が被告主張のとおりであることは認め、その余は争う。

6  同6の前段は、そのうち計算方法自体は認め、その余を争い、同後段の事実は認める。

7  同7の(一)のうち、(1)の事実は不知、(2)は、受遺贈財産として申告していないことを認め、その余を否認、(3)の計算関係は認める。

仮に原告瑛が本件預金の存在を認識していたとしても、単なる不申告行為のみでは「隠ぺい」又は「仮装」に当たらないから、本件重加算税賦課決定は違法である。

同(二)は、原告勇ら三名の修正申告に係る相続税額が被告主張のとおりであることは認め、その余は争う。

第三  証拠<省略>

理由

一各処分の存在及び出訴期間

請求原因1(更正、再更正及び加算税)、同2の(一)(修正申告)、(三)(更正の請求)及び(四)(更正をすべき理由がない旨の通知)、同3(前置手続)の各事実は当事者間に争いがない。

本件第一〇二号事件訴訟は昭和五五年八月七日に原告ら四名によつて、本件更正及び本件加算税の取消し請求として先ず提起され、原告勇は昭和五七年六月一日右更正の取消請求を本件再更正の取消請求に訴えを変更したものである。右の両請求はいずれも原告勇の修正申告額を超える処分の取消しを求めるものであるから、実質的に同一であり、当初の請求に係る訴えが前置手続及び出訴期間を遵守している(同原告には国税通則法一一五条一項二号が適用される。)以上、右変更後の訴えも出訴期間の点では適法なものと解すべきである。

二原告洋子の本件再更正の取消しを求める訴えの適法性

原告洋子は、本件更正の取消しと本件再更正の取消しとを選択的に請求するが、同原告に関するかぎり、別表1の該当欄記載のとおり、両者の間には納付すべき相続税額等又は課税標準等において差異がない(別表1原告洋子。更正欄、再更正欄各⑩、③)。

そうであれば、右再更正は国税通則法二九条に定める効力を生じないから、本件更正を吸収する処分としての性質を持たず、原告洋子には右再更正の取消しによつて回復すべき法律上の利益というものも存在しない。すなわち、右再更正は、本件更正によつて生じた法的効果である同原告の納税義務が、他の共同相続人に対する再更正によつても変動を来さないことを通知もしくは確認する趣旨を出るものではない。

そうすると、同原告に対する右再更正は、抗告訴訟の対象となる処分ではないから、その取消しを求める訴えは不適法である(なお、右再更正に右更正を取消す処分が随伴していた旨の主張はない。)。

三原告正の本件通知処分取消請求の適法性

請求原因2(五)のうち本件更正請求が国税通則法所定の期間の経過後であること及びこれに係る不服申立手続においていずれも実体判断がされたことは当事者間に争いがない。

しかし被告が本件更正の請求及び異議申立てに対し、また、国税不服審判所が右に係る審査請求に対しそれぞれ実体判断を示したからといつて、更正の請求の期間徒過によつて本来不適法であつた本件更正の請求が適法となるいわれはない(現行法上は、被告もしくは国税不服審判所長に右期間の徒過を宥恕する権限は与えられていない。)。従つて本件通知処分を取消したとしても、処分庁としては本件更正の請求を却下するほかないのであつて、同原告には右取消しにより回復される法律上の利益がなく、右訴えは不適法である。

同原告は、被告が右期間徒過を主張することは信義則に反し許されないと主張するが、被告の主張をまつまでもなく訴えの適法性に関しては裁判所が職権で調査すべき事項であるし、被告が実体判断をした一事で、右のような主張をすることが信義則違反となるものでもなく、右主張は失当である。

四包括遺贈及び遺産の価額

1  包括遺贈及び修正申告の内容

抗弁1(包括遺贈)、同2のうち(一)(修正申告に係る遺産の価額)及び(三)(債務控除額)の各事実は当事者間に争いがない。

2  富士銀行における一萬太郎の預金

<証拠>によれば、次の事実が認められ<る。>

(一)  富士銀行江戸川支店において、別表3の番号1ないし8の各仮名定期預金、同番号9ないし11の各無記名定期預金及び同番号12ないし14の各仮名通知預金が各預入日に設定されたが、同支店でこれら仮名、無記名の預金の取扱いの便宜のために作成していた期日帳では、右1ないし9の定期預金を「宇津木一萬太郎」と題して一括し(<証拠>)、右番号10の定期預金は「宇津木瑛」と題する期日帳(<証拠>)にそれぞれ記入していた。

なお、右期日帳の表題の氏名は現実に預金設定の手続に当たつた者を表わすものであつて、預金債権の帰属者と認定した趣旨ではない。

(二)  右番号1ないし3の各仮名定期預金(合計九〇〇万円)の設定日に近接して、一萬太郎は三菱銀行江戸川支店の同人名義の普通預金口座から同年一月一四日に四〇〇万円、同年二月二日に五〇〇万円(合計九〇〇万円)の払戻しを受け、当時、右設定額に見合う資金を所有していた。

そして、富士銀行江戸川支店においても、右各仮名預金を一萬太郎のものと認識して管理に当たつていた。したがつて、同人死亡後の昭和五〇年二月六日になされた原告瑛の同預金の解約申込に対しても、各預金の名義(仮名)との不合致は問題とせず、解約に応じている。

(三)  前記番号4ないし8の各仮名定期預金(合計二〇〇〇万円)も一萬太郎の申込を受け、富士銀行江戸川支店の得意先課長代理月森立身及び田中課長が一萬太郎から予約預りとして現金を受け取り、同人の指定日に合わせて順次設定手続をとつたものである。

これに先立つて、一萬太郎は、右支店の同人名義の普通預金口座から右設定日に接着する同年二月一四日と同月一五日に各五〇〇万円(合計一〇〇〇万円)の払戻しを受け、さらに同月一六日に三菱銀行江戸川支店の同人名義の定期預金(番号八四三四三六八〇〇七)元利合計一〇二七万〇七一九円(税引き後)を「他行(富士)借入金返済」との理由で解約し、右設定額をまかなえる資金を当時確保していた。

(四)  前記番号9及び11の各無記名定期預金(合計一二〇〇万円)も、一萬太郎の申込を受けた月森立身が一萬太郎から現金を予約預りとして受取り、順次設定に当たつたものである。

一方、一萬太郎は、右設定日に接着する同月七日、右支店の同人の前記普通預金口座から一二〇〇万円の払戻を受け、右設定額に見合う資金を当時確保していた。

(五)  前記番号10の無記名定期預金及び同12ないし14の各仮名通知預金(合計三〇〇〇万円)は、原告瑛が月森立身に現金を予約預りとして交付し、その設定手続を指示したものであるが、右交付された現金は、右設定日の前日に原告瑛が一萬太郎に代わつて一萬太郎名義の定期預金二口(預金番号一〇〇―二七三三及び九八―一七八九、額面合計三〇〇〇万円)を解約し、払戻を受けた元利合計三一六八万八七九二円のうち三〇〇〇万円であつた。

なお、一萬太郎は右解約の前日である一八日午後六時三〇分、急性心筋梗塞により国立病院多摩センターに入院し、同月二四日午前七時一一分死亡したものである。

(六)  原告瑛は、一萬太郎死亡後の同年一二月二日に右番号14の仮名通知預金を、同月二五日に同12及び13の各仮名通知預金をそれぞれ解約した。

(七)  国が原告らに対する相続税債権を徴収するため、富士銀行に対して提起した当庁昭和五五年(ワ)第七八七五号差押債権取立請求事件において、同行は、前記番号9及び11の各無記名定期預金が前記(四)の払戻金を原資とする一萬太郎のものであること並びに同番号10の無記名定期預金及び同番号12ないし14の各仮名通知預金が前記(五)の解約払戻金を原資とする一萬太郎のものであることをいずれも自白した。

以上の事実によれば、富士銀行江戸川支店における前記(一)の各預金はすべて一萬太郎の遺産と認められる。

そして、右番号1ないし11の各定期預金の相続開始日までの中途解約利率による既経過利息を加算した額が四七〇一万七九九五円(別表3の評価額)であることは当事者間に争いがなく、これに同12ないし14の各通知預金合計二五〇〇万円を加算した七二〇一万七九九五円は同人の遺産の価額に加算されるべきものである。

3  三菱銀行における一萬太郎の預金

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ<る。>

(一)  三菱銀行江戸川支店において、別表3の番号15ないし28の各無記名定期預金が各預入日に設定されている。

(二)  一萬太郎は昭和四九年六月ころ、右の支店長御園信雄に対し、相続対策ならびに相続税対策のため既存の記名式定期預金二口、額面合計四四〇〇万円を解約したいと申し入れたが、同支店長及び貸付係長藤井康から無記名定期の形ででも同支店内に右預金を留めるよう懇願され、無記名定期預金に預け替えることで右懇願を応諾した。

(三)  そこで一萬太郎は同月一七日、右支店の実名の定期預金(額面一四〇〇万円、番号八四三四五六八〇〇五)を解約し、その元利合計一四六〇万八九二八円(税引き後)のうち五〇〇万円を藤井康に交付して前記番号15及び16の各無記名定期預金を設定し、残余の九六〇万八九二八円を同月一九日、同支店にある同人の前記普通預金口座に一旦預け入れた。

(四)  一萬太郎は同月二六日、右普通預金口座から右九六〇万八九二八円の払戻しを受け、そのうち九〇〇万円をもつて、前記番号17ないし19の各無記名定期預金を設定した。

(五)  ついで一萬太郎は同年七月八日、同支店における同人名義の定期預金(額面三〇〇〇万円、番号八四三四三六八〇〇四)を解約し、その元利合計三一三四万三六八二円(税引き後)のうち一一〇〇万円を藤井康に交付して、前記番号20及び21の各仮名定期預金を設定し、残余の二〇三四万三六八二円は一旦受け取つた。

(六)  前記(二)の懇願と応諾の席に立ち会つた同支店長及び藤井康には、一萬太郎がこの約束を違えなかつたことの記憶があるところ、同支店において同年七月九日(右二〇〇〇万円余受領の翌日)から同月一五日までに設定された無記名定期預金は一〇口あるが、その中で前記番号22ないし28の各無記名定期預金(額面合計二〇〇〇万円)のみが預金番号の上三桁を共通(八五〇)にしており、他の三口とは異つている。

また、東京国税局が昭和五三年八月二五日付けで右番号15ないし17、19ないし28の各無記名定期預金(番号18の預金は当時既に解約されていた。)を差し押えた際、原告瑛は相続人代表として、同年九月一九日付け文書をもつて、右支店に対し右被差押債権の預金証書の再発行を求めた。

同支店でも、預け入れ当時の扱者などの記憶及び保存されていたメモ書などから、これらの預金が一萬太郎に帰属すると推定はできていたが、既発行の証書による二重払いの危険が解消されていないこと及び右預金が相続財産として未分割であること等を理由に、証書の再発行には応じなかつたが、右再発行の要求書を正式な証書紛失届と扱うことにした。

その後、右差押えに係る無記名定期預金については、原告瑛の右申入れ以外に、権利者と名のり出た者はいない。

以上の事実によれば、三菱銀行江戸川支店における前記番号15ないし28の各預金はすべて一萬太郎の遺産と認められる。

そして、右の15ないし28の各定期預金にその相続開始日までの中途解約利率による既経過利息を加算した額が四五三九万二三〇三円であることは当事者間に争いがない。

原告らは、右番号11の無記名定期預金を被告が本訴で一萬太郎の遺産と主張することは、更正の期間徒過後であるから許されないと争うけれども、失当である。課税処分において示された課税標準または税額が右処分時において客観的にみて正当な数額であつたことを根拠づける事実を主張することは、訴訟上の防禦方法の提出に過ぎず、右主張によつて新たな課税処分が成立するものではない。したがつて、右事実主張は更正の期間による制約を受けず、口頭弁論において随時提出できるものである。

4  遺産の課税価格(総額)

以上により、一萬太郎の遺産の課税価格は、前記争いのない修正申告額四億三九六七万四八一九円に別表1掲記の1ないし28の各預金の評価額合計一億一七四一万〇二九八円を加算し、債務控除額として争いのない一五〇三万七五〇六円を減算した五億四二〇四万七〇〇〇円(千円未満切捨て)となるから、同表③の本件更正及び再更正に係る課税価格がこれを下回つていることは明らかである。

五本件更正に係る原告らの課税価格

1  原告瑛

抗弁3(一)(1)(修正申告に係る取得財産の価額)及び(3)(債務控除額)の各事実は当事者間に争いがない。しかし、同原告については、右のほか前記四4判示の各評価額合計一億一七四一万〇二九八円の遺産のうち同原告の包括遺贈割合一〇〇分の九〇に当たる一億〇五六六万九二六八円の受遺贈財産があるから、右取得財産の合計額から右債務控除額を差し引いた四億八六三三万九〇九九円のうち千円未満を切り捨てた額(国税通則法一一八条)が同原告の本来の課税価格であつて、右の範囲内である本件更正に係る課税価格(別表1原告瑛・更正欄③)は適法である。

2  原告洋子

抗弁3(二)(1)(修正申告に係る取得財産の価額)の事実は当事者間に争いがなく、これに前同様の理由及び方法(但し、同原告の包括遺贈割合は一〇〇分の四)で受遺贈財産となる四六九万六四一一円を加えた二二二八万三四〇三円のうち千円未満を切り捨てた額が同原告の本来の課税価格であるから、右の範囲内である本件更正に係る課税価格(別表1原告洋子・更正欄③)は適法である。

3  原告勇、同正

抗弁3(三)(1)(修正申告に係る取得財産の価額)の事実は当事者間に争いがなく、これに前同様の理由及び方法(但し、同原告らの包括遺贈割合は各一〇〇分の三)で受遺贈財産となる三五二万二三〇八円を加算した各一六七一万二五五二円のうち千円未満を切り捨てた額が同原告らの本来の課税価格であるから、右の範囲内である本件更正に係る課税価格(別表1同原告ら・更正欄③)は適法である。

六遺産分割調停の成立等

抗弁4(遺産分割調停の成立とこれによる更正の請求)の事実は、一萬太郎がもと申告外土地を所有していたこと(請求原因2(二)同旨)を含めて当事者間に争いがない。そこで、請求原因2(二)のうち本件越谷の土地の売買の点について判断する。

<証拠>には、同原告が本件越谷の土地を一萬太郎から昭和四七年五月一〇日、代金六六〇万円で買い受け、同月三一日六〇万円、昭和四八年一〇月三〇日六〇〇万円を代金として支払つたが、右土地は区画整理中であつたため所有権移転登記ができなかつたとの趣旨の部分があり、これに副う「売買契約書」と題した<証拠>、代金授受の「証」と題した<証拠>、昭和四七年五月三一日六〇万円、昭和四八年一〇月三〇日六〇〇万円の各払戻しの記載がある原告正名義の普通預金通帳(<証拠>)も存在し、<証拠>によれば、本件越谷の土地につき昭和四七年五月一三日受付をもつて、同月一二日売買予約を原因と表示する原告正名義の所有権移転請求権仮登記が経由されている事実も認められる。これらによれば、一見、原告ら主張の売買が認められるかの如くである。

しかし、<証拠>によれば、右売買契約書と題する甲第五号証及び右預金通帳は一萬太郎死亡の一、二年後に同人の金庫から見付かつたというのであつて、買主であるはずの原告正が所持していたものではない。また、前記預金通帳の右六〇〇万円の払戻しの資金となる昭和四八年九月二五日預け入れの五六六万四五〇〇円の調達方法についての同原告本人の供述はあいまいなところ、同原告は昭和四六年に大学を卒業して信用金庫に就職した(この事実は<証拠>により認められる。)身であつて、右買受資金を有していた旨の同原告の供述はたやすく信じられない。

そして、<証拠>によれば、

1  昭和四五年ころ、原告正名義で本件越谷の土地上に木造瓦葺二階建の建物四棟が建築され、他に賃貸されたことに関して、一萬太郎と原告正は連名で昭和四七年一一月一日、春日部税務署長に対し「土地の無償使用に関する申出書」(<証拠>)を提出したが、両名は右申出書の中で、本件越谷の土地は一萬太郎が現に所有中であり、これを原告正に同年一月一〇日から無償で使用させることにしたが、このことにより特別の利益を与えまたは受けるものでないこと、したがつて、一萬太郎について相続の開始があつた場合等には、相続税等の課税上は、この土地について原告正は何らの権利も有しないものとして取り扱われても異議がないことを確認している。

2  一萬太郎は死亡に至るまで本件越谷の土地の固定資産税等を自ら負担していたし、原告正も含めて、原告らは相続税の申告及び修正申告の時点までは、本件越谷の土地が一萬太郎の遺産に含まれるものとして、右各書類を提出したし、その作成に関与した税理士井上録郎に対しても、原告らが右土地が遺産でない旨を告げたことはなかつた。

との事実が認められる。

右1ないし3の各認定事実に前記四3(二)で認定したように一萬太郎は相続税を脱れようと画策していた事実を合わせて考えれば、右の<証拠>並びに前記仮登記の事実をもつてしても、原告ら主張の売買契約の成立を認めるには足りず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

以上のとおり、原告正による本件越谷の土地買受の事実は認められないから、本件申告土地及び申告外土地はいずれも一萬太郎の遺産であつたことになる。

七本件再更正における原告らの課税価格

1  原告瑛

前記五1のとおり、遺贈により同原告の取得した財産の価額から債務控除額を差し引いた額は四億八六三三万九〇九九円であるから、右金額から前記六の遺産分割調停により他に帰属することとなつた別表2番号2ないし5の各土地の評価額(この額は当事者間に争いがない。)合計二九四二万二五七二円を差引いた四億五六九一万六五二七円のうち千円未満を切り捨てた額が本件再更正における本来の課税価格である。

したがつて、右の範囲内である本件再更正に係る課税価格(別表1原告瑛・再更正欄③)は適法である。

2  原告勇

前記五3のとおり、遺贈により同原告の取得した財産の価額は一六七一万二五五二円であるから、右金額に前記六の遺産分割調停により同原告に帰属することとなつた別表2番号4の評価額三一三万〇五三三円を加えた一九六八万三一三七円のうち千円未満を切り捨てた額が本件再更正における同原告の本来の課税価格である。

したがつて、右の範囲内である本件再更正に係る課税価格(別表1原告勇・再更正欄③)は適法である。

3  原告正

前記五3のとおり、遺贈により同原告の取得した財産の価額は一六七一万二五五二円であるから、右金額に前記六の遺産分割調停により遺産として同原告に帰属することになつた申告外土地の評価額合計七二〇万〇四六八円を加えた二三九一万三〇二〇円のうち千円未満を切り捨てた額が、本件再更正における同原告の本来の課税価格である。

したがつて、右の範囲内である本件再更正に係る課税価格は適法である。

4  原告洋子

前記六の遺産分割調停は同原告の取得財産、あるいは課税価格(二二〇七万円)に変動を生じさせなかつたから、同原告についての本件再更正が処分に当たらないことは前記二で述べたとおりである。

八相続税額の計算

抗弁6(相続税額の計算)の後段(相続税の総額を按分する際の小数点第二位未満の処理)の事実は当事者間に争いがない。

すでに判断したとおり、本件更正に係る課税価格(別表1各原告・更正欄③)あるいは本件再更正に係る課税価格(同・再更正欄③)は適法であるから、これについて右の争いない按分割合を用い、所定の方法で算定した各原告の納付すべき税額は同表同・更正欄及び再更正欄各⑩の金額となる。したがつて、本件更正及び本件再更正は納付すべき税額においても適法である。

九本件加算税

1  原告瑛に対する本件重加算税

(一) 前記四2及び3の認定事実、とくに本件各仮名及び無記名の預金の設定が、もつぱら一萬太郎の実名預金の払戻しもしくは解約による実名預金の解消という形で約一〇箇月の間に集中的になされており、同人自身も三菱銀行江戸川支店長に対し右は相続税対策のためであることを明言しているところからみて、一萬太郎は原告瑛らが本件相続税を免れ易くする目的で本件預金を設定したものと推認することができる。

右のような意図で設定された本件預金は、その仮名あるいは無記名性のゆえに、これが一萬太郎の遺産を構成するものであることを相続人あるいは受遺予定者に了知させる手だてが必要であり、一萬太郎もこれについて当然配慮していたものとみるのが合理的である。

(二) <証拠>によると、一萬太郎は富士銀行及び三菱銀行の各江戸川支店に大口の預金を有し、その管理のために単身で右各支店に出向いていたが、昭和四九年春ごろからは原告瑛を同道して訪れるようになり、預金等の銀行取引に同原告を関与させる態度に変つたことが、前記(四2(三))月森立身の注意を惹いている。

(三) そして、前記四2(一)、(二)のとおり、別表3の番号1ないし3の各仮名定期預金は一萬太郎の資金によつて一萬太郎が設定し、銀行側でも期日帳によつてそのように管理していたものであるところ、原告瑛は一萬太郎の死後にこれを解約して、同金員を入手している。また、同(五)、(六)のとおり、同番号10及び12ないし14の無記名あるいは仮名の預金については原告瑛が設定手続に関与し、そのうち番号12ないし14の預金を一萬太郎の死後に解約し、同金員を入手している。

また、前記四3(六)のとおり、原告瑛は差し押えられた同番号15ないし17、19ないし28の各無記名定期預金について、一萬太郎の相続人代表として預金証書の再発行を要求している。

(四)  一萬太郎は生前、株式会社桝屋宇津木商店(通称宇津木商店)の社長であり、原告瑛はその長男であつて、当時右商店の副社長として、一萬太郎の後継者の地位にあつたことは、<証拠>によつて明らかである。

(五)  右(一)ないし(四)の事実を合わせて考察すれば、原告瑛は本件相続税申告の際、本件預金が一萬太郎の遺産として存在することを認識していたが、一萬太郎の「相続税対策」の意図及びこれに基づく行為によつて、本件預金が仮名又は無記名で預け入れられていて、これが一萬太郎の遺産であることを通常の手段では確認し難い状態にあることをも認識し、この隠ぺいされた状態を利用して、自ら本件預金に係る相続税を免れる意思で、これを受遺贈財産から除外し、右相続税の申告に及んだものと推認することができる。

同原告の右所為は単なる不申告ではなく、自ら意図的に本件預金を隠ぺいして申告をしたのとなんら異るところはないから、右所為について重加算税を課する処分は正当である。

(六)  同原告に対する重加算税の額を計算すれば、別表6のとおりであり、この計算は同原告も争わないところである。

右によれば、本件再更正に伴う減額後の本件重加算税賦課の決定部分は適法である。

2  その余の原告らに対する本件過少申告加算税

その余の原告ら三名の修正申告に係る納付すべき相続税額が別表1の各該当欄記載のとおりであることは当事者間に争いがないところ、当該原告に対する本件更正に係る納付すべき相続税額は別表1当該原告・更正欄⑩のとおりであるから、これを右修正申告に係る納付すべき相続税額との差額(千円未満切捨て。別表1当該原告・更正欄⑪)の五パーセントに当たる額(国税通則法六五条。但し、同法一一九条一項により百円未満切捨て)が本件過少申告加算税の額(同表1当該原告・更正欄⑫)である。

したがつて、本件過少申告加算税賦課決定も適法である。

一〇結論

以上のとおり、原告洋子の本件再更正の取消しを求める訴え及び原告正の本件通知処分の取消しを求める訴えはいずれも不適法であるから却下することとし、原告らのその余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文を適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官山本和敏 裁判官太田幸夫 裁判官滝澤雄次)

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